小学校四年生くらいのとき、ある日学校から帰ったら家に母がいて、手提げを作ってくれていたことがありました。母は外で働いていたので、家にいることにまず驚き、それから、普段お裁縫をしない母が手提げを作ってくれたこと、そのことがとても嬉しかったのを覚えています。
やさしい黄色の、落ち着いた配色のチェック柄の手提げで、底から脇にかけて斜めに、15センチくらいの白い綿レースがあしらわれていました。母が私のために作ってくれたそのカバンは、他のどんなカバンよりも素敵で、手に取ったとき、光っているように見えたほどです。
色もチェックの配色も気に入っていたけれど、私を一番ときめかせたのはレースの部分でした。私の暮らしに初めて登場した、可愛くてロマンチックなモノでした。洋服は弟がお下がりを着られるようにと中性的な色やデザインのものばかり着ていたので、レースが付いた洋服は着たことがなかったのです。そんな私には、派手に大きくではなくて、控えめに小さく縫い付けられたレースが、ぴったりのように思えました。
あの手提げは持つたびに、私を誇らしい気持ちにしてくれたものです。このカバンを持っている女の子にふさわしい女の子になりたいと思わせてもくれました。私自身よりも上等だから、それに見合う自分になりたいと、小学生の私は思ったのです。
母が縫い付けてくれた15センチのレースは、私を少しだけ、素敵に成長させてくれたんじゃないかな。
