『浜辺の歌』という歌をときどき口ずさみます。ずっと昔、中学生くらいのときに読んだ漫画の中に、主人公の女の子がこの歌を歌っているシーンがあって、それを真似してみたのが最初です。女の子は、悲しくてやるせない夜をやり過ごしたのち、明け方の海で歌います。目を閉じて、口を大きく開けて、とても穏やかな表情で。その、しなやかで逞しい姿に、当時の私は憧れました。この世の悲しみや理不尽を、歌いながらくぐり抜けていけるような、そんな人になりたいな、と思ったのです。
あした浜辺をさまよえば 昔のことぞしのばるる
風の音よ雲のさまよ 寄する波も貝の色も
ゆうべ浜辺をもとおれば 昔の人ぞしのばるる
寄する波よ返す波よ 月の色も星のかげも
歌いだしの『あした』は古語で、『朝』という意味です。それを知っていてもなお、歌うときには、どこかで明日のことを思って歌います。私にとってこの歌は、元気を出したいとき、背筋を伸ばしたいときに、自分で自分を励ます、痛いの痛いの飛んでいけ、のような、おまじないの歌です。
