かつて何かが入っていた、硝子の空き瓶。ジャム、牛乳、プリン、ウニ。食べてしまって空になったら、シールを剥がして、きれいに洗って置いておく。そしてその後の予期せぬいつか、その瓶に花を生けたりする。その瓶に、かつて何が入っていたか、覚えているのもいいし、もう思い出せなくてもいい。
硝子の瓶が、瓶どうしでぶつかる時の音。カチンでもコツンでもガチャンでもない、ちょっと擬音では表せないような音。小学校のときの給食の後、給食室の近くに並べられた牛乳ケースに空き瓶を並べて返却する、そんな時に、響いていた音。早朝、牛乳配達の軽トラがやってくるときも、布団の中で耳をすませばこの音が聴こえてくる。瓶は分厚ければ分厚いほど、ぶつかるときの音は優しい気がする。
ラムネの瓶の、意味不明な形、ぼってりとした厚さ、くすんだ水のような色。それから、中に硝子の玉が入っているという、謎めいたところ。子どもの頃、ラムネの瓶と同じ色のビー玉をひとつ持っていて、光に透かすと、小さな気泡がいくつも散らばっていて、それが宇宙のようでした。ラムネの瓶から取り出されたものなのかどうかわからなかったけれど、そうだったらいいのにな、と思っていました。一度だけ、こっそり飴玉みたいに口に入れてみたことがあります。それは冷たくて硬くて、硝子の味がしました。
